耳鳴りの治療

薬物療法

正直に話しますと、確実に「耳鳴り」を消失させる夢のような薬は現在のところまだありません。
ただし、先にお話しました様に、耳鳴りは色々な要因がからんで生じているので、その要因をすこしずつ解きほぐして、治療を行うことで、徐々に改善してくる場合があります。その手助けとして用いるのが内服薬です。

  • 一般的な内耳の治療:ビタミンB12製剤、ATP製剤、脳循環改善剤
  • 急性の感音性難聴(内耳・聴神経由来の難聴)に対する治療:ステロイド製剤
    ※糖尿病・緑内障・胃潰瘍などがある場合は使えない場合もあります。
  • メニエール病のような内リンパ水腫があると考えられる場合:利尿剤(イソソルビド)
    これらは比較的早期の治療で有効です。
  • 大脳皮質下の感度を下げる治療:抗不安剤・抗うつ剤・自律神経調節剤
  • 頸部のこりをとる治療:筋弛緩剤
  • 神経の異常興奮を抑える治療:抗痙攣剤(テグレトールなど)
  • 漢方薬
    漢方薬・東洋医学といえども耳鳴りは治療が比較的難しい部類の症状です。
    しかし、うまく合えば改善する場合があります。

音響療法

耳鳴りと類似の音や、自然界のサウンド(小川のせせらぎや波の音、木々のざわめく音など)を聴くことによって、そちらに意識を分散させ、相対的に耳鳴りを小さくさせることで、耳鳴りへ意識が集中しない様にして慣らしていく治療法。

カウンセリング

2つの方向性を持ったカウンセリングがあります。
一つは、患者さんに対して、不安や苦痛を傾聴することで、心を開放していただく一般的な心理的カウンセリングです。
耳鳴りのカウンセリングの場合は、もう一つ、耳鳴りのメカニズムを詳しくお話することで、耳鳴りが得体の知れないものでも、将来耳鳴りが原因で難聴に至るというものではない様なことを理解してもらう、指示的なカウンセリングがあります。

耳鳴りを悪化させている要因の一つが、大脳辺縁系や自律神経系といった部分との負のネットワークです。特に扁桃体と呼ばれる感情をひきおこす部位が脳にはありますが、この部分をうまくコントロールできるかどうかが、耳鳴りが苦痛になるかそうでないかの分かれ目になります。
普通は、この扁桃体をコントロールするのは前頭前野と呼ばれる場所なのですが、このコントロールには、感情に負けない十分な知識が必要なのです。

TRT療法

TRTはTinnitus Retraining Therapy(耳鳴り再トレーニング療法)の略。先述の音響療法と指示的カウンセリングを組み合わせて行われます。耳鳴りに対する正しい知識を持ち、色々な音を聞くことで耳鳴りだけに集中することをやめて、相対的に耳鳴りを小さくすることで慣れていくことを目的とする治療法です。耳鳴りを消し去ることを目的としているわけではありません。ですので、耳鳴りを消し去りたいと思っている人には向きません。まずは目的地の変更が必要です。

補聴器

一般的には補聴器は難聴を補うツールで、コミュニケーションのためのツールと思われています。実際にそれはそうなのですが、耳鳴りにも有効といわれています。
それは、耳鳴りのメカニズムからも正しい選択です。

耳鳴りは、その大半は聴力が低下した結果、脳での感受性が高まり、大きな音として感じるようになってしまっているわけです。
ですから、外からの音が大きく入ってくれれば脳は感受性を上げる必要がなくなってきます。脳の感受性が下がれば、耳鳴りは自ずと小さくなります。
補聴器をすると、ワンワン頭に響いてつらいと訴えられる方もいらっしゃいます。それは、本来それくらいきこえていたはずの耳が、入力が減ったために、それに慣れっこになっている証明でもあります。そうした場合でも、一番大切なのは、「脳を変える」ことですので、頑張って続けて装用してください。
まずは1週間頑張りましょう。きっと世界が変わってきます。

認知行動療法

耳鳴りに対する考え方のひずみに気づいてもらい、考え方を変えていくことをサポートします。
どうしても耳鳴りの患者さんは耳鳴りが気になり出すと、「この耳鳴りは頭の中が悪いのではないか」とか「耳鳴りがずっと続くのではないか」、「耳鳴りできこえなくなるのではないか」といったことを自動的に考えてしまわれます。
また、耳鳴りの患者さんの世界観は、「耳鳴りのない理想的な生活」か「耳鳴りで苦しむ地獄の生活」かの2つしかありません。「多少耳鳴りがしていても、普通に生活できている」という状態が認識できなくなっています。

こうした間違った考え方に気づき、普通の生活ができるように手助けを行います。